データ深掘り

ごみ処理原価「全国1位」の6割は建設費だった
奈良・沖縄・島根の跳ね上がりを分解する

公開日:2026年9月17日/出典:環境省 一般廃棄物処理事業実態調査 廃棄物処理事業経費(令和元〜6年度)

日本ごみ処理ダッシュボードで令和6年度のごみ処理原価(1トンあたりの処理事業費)を見ると、奈良県が164,618円で全国1位。2位の沖縄県97,302円に7万円近い差をつけた、極端な数字です。ところが奈良県の令和元年度は54,137円で、当時は全国のほぼ平均並みでした。6年で3倍——この間に奈良県のごみ処理が3倍非効率になったのでしょうか。原価の中身を分解すると、まったく別のものが見えてきます。

164,618円
奈良県のごみ処理原価(令和6年度・全国1位)
58.9%
そのうち施設の建設改良費が占める割合
62,958円
建設費を除いた運営コスト(全国2位)

処理原価には、施設の建設費が含まれている

環境省の実態調査でいう「ごみ処理事業経費」は、次の3つの合計です。

建設改良費(焼却施設・最終処分場などの工事費と調査費)、処理及び維持管理費 (人件費・収集運搬費・中間処理費・最終処分費・委託費など、日々の運営にかかる費用)、そしてその他。 本サイトの処理原価は、この合計をその年度の処理量で割った値です。

ここに落とし穴があります。清掃工場の建て替えは数百億円規模の事業で、しかも工事が集中した数年間に 費用が計上されます。運営がまったく同じでも、建て替えをしている年の原価だけが跳ね上がるのです。

奈良県の原価を分解する

令和元年度から6年度まで、奈良県の処理原価を建設改良費と運営費に分けてみます。

奈良県のごみ処理原価の内訳(1トンあたり、円)
年度処理原価うち建設改良費うち運営費建設費の割合
令和元年度54,1371,84449,5373.4%
令和2年度61,6486,22851,33010.1%
令和3年度65,0708,58053,34213.2%
令和4年度79,04220,77154,29326.3%
令和5年度109,83045,11660,61741.1%
令和6年度164,61897,03662,95858.9%

6年間で原価は110,481円増えましたが、そのうち95,191円(86%)が建設改良費の増加です。 運営費は49,537円→62,958円の増加にとどまります。この13,421円(+27.1%)という伸びも決して小さくはありませんが、 同じ期間に全国平均の原価が51,009円→66,436円(+30.2%)と上がっていることを考えれば、 奈良県の運営コストは全国並みのペースでしか上がっていないことになります。

「全国一処理が高い県」ではない :奈良県の令和6年度の原価164,618円のうち、約半分は将来何十年も使う施設への投資です。 これを1年分の処理量で割って他県と比べるのは、住宅ローンを組んだ年の家計支出を 賃貸暮らしの人と比べるようなものです。

沖縄県・長崎県でも同じことが起きている

令和6年度に原価が跳ねた県を見ると、同じ構造が繰り返されています。

令和6年度 処理原価上位県の内訳(1トンあたり、円)
都道府県処理原価うち建設改良費うち運営費建設費の割合
奈良県164,61897,03662,95858.9%
沖縄県97,30246,68541,25448.1%
長崎県87,75619,49652,14122.2%
北海道85,62129,55750,94734.5%
福井県84,96736,80245,42943.3%
東京都82,72614,20562,45617.2%
福岡県77,82513,04761,07316.8%
徳島県77,3974,97468,2456.4%

沖縄県は令和5年度の57,531円から6年度の97,302円へ1年で69%の急騰を見せましたが、 建設改良費が13,189円→46,785円と3.5倍になったことがほぼすべてを説明します。 運営費は39,091円→41,254円と5.5%の増加にとどまりました。

長崎県はやや事情が異なります。令和6年度の原価87,756円のうち建設改良費は19,496円(22.2%)で、 奈良・沖縄ほど建設費に偏ってはいません。むしろ注目すべきは、長崎県が令和元年度にすでに 72,283円と高かったことです。当時の内訳を見ると建設改良費が28,726円(39.7%)—— この県は6年間の最初と最後の両方で建設期に当たっていたのです。 その間の令和4年度は原価57,662円(建設費割合7.5%)まで下がっています。

島根県を見ると、この指標の不安定さがよく分かる

最も分かりやすい例が島根県です。

島根県のごみ処理原価の内訳(1トンあたり、円)
年度処理原価うち建設改良費うち運営費建設費の割合
令和元年度64,56519,17941,61529.7%
令和2年度91,39242,24844,70246.2%
令和3年度135,48173,18841,99654.0%
令和4年度66,89021,30141,41531.8%
令和5年度57,6686,95245,19312.1%
令和6年度75,76621,28750,15928.1%

令和3年度の島根県は135,481円。この年であれば文句なしの全国1位です。ところが2年後の令和5年度には 57,668円まで落ち、全国平均(60,812円)を下回ります。この間、運営費は41,996円→45,193円とほとんど動いていません。 順位が入れ替わったのは、工事が終わったからです。

つまり処理原価の単年度ランキングは、その県のごみ処理が効率的かどうかではなく、 その年にたまたま清掃工場を建てていたかどうかを、かなりの割合で映しています。

建設費を除くと、ランキングの顔ぶれが変わる

では建設改良費を除いた運営費だけで並べるとどうなるか。令和6年度の上位は 徳島県68,245円・奈良県62,958円・東京都62,456円・福岡県61,073円・和歌山県53,428円。 少ないほうは群馬県36,213円・富山県37,031円・石川県38,197円・茨城県38,405円・宮城県38,990円です。

この「運営費のみ」の原価は、ダッシュボードの指標としても選べるようにしました。 ランキングの指標を 「ごみ処理原価(運営費のみ)」に切り替えると、建設費を除いた順位が確認できます。

沖縄県は41,254円で、合計では全国2位だったのが運営費では中位以下に下がります。 逆に東京都や福岡県のように、建設費の割合が小さいまま上位に入る県は、 日々の運営そのものにコストがかかっていると読めます—— これは以前の記事で扱った、 施設の規模と集約度の話につながっていきます。

読み方のコツ :ダッシュボードで処理原価を見るときは、年度を切り替えて推移を確認してください。 ある年だけ跳ね上がっている県は、ほぼ間違いなく施設の建設期です。 都道府県を選ぶと表示される推移グラフでは、合計・運営費・建設改良費の3本を重ねて確認できます。 年度を「全期間」にすると6年分がならされるので、単年度より実態に近い比較ができます。

建設ラッシュそのものは全国的な現象

なお、全国の処理事業費に占める建設改良費の割合は、令和元年度21.8%から令和6年度23.2%とほぼ横ばいです。 令和6年度に建設費が原価の30%を超えた県は12。全国の焼却施設の多くが1990年代から2000年代前半に 建てられたことを考えれば、更新期が重なるのは自然なことで、今後も同じ理由で原価が跳ねる県は 入れ替わりながら現れると考えられます。

全国平均の処理原価が6年間で51,009円から66,436円へ30%上昇したのは、建設費の割合が増えたからではなく、 人件費・委託費・燃料費といった運営コスト側の上昇が主因です。

本記事の内訳は、環境省「一般廃棄物処理事業実態調査」の廃棄物処理事業経費(歳出)から、 ごみ処理分の「建設改良費(工事費+調査費、組合分担金を除く)」「処理及び維持管理費」「その他」を 都道府県単位で集計し、各年度の処理量で割ったものです。3区分の合計は本サイトの処理原価と一致します。 建設改良費の増減の背景にある個別の施設整備事業については、本データからは特定できません。 また経費データは都道府県単位のみの公表で、市区町村別の内訳は含まれていません。

単年度の1位には、たいてい理由がある

「全国で最もごみ処理費が高い県」という見出しは目を引きますが、その中身の6割が 将来のための施設投資だとしたら、意味はずいぶん変わってきます。ランキングの数字を見たときに 「これは何の合計なのか」を一度確かめる——それだけで、読み違いはかなり減らせます。

「運営費のみ」の原価に切り替えて、建設費を除いた順位を確かめてみましょう。

ダッシュボードで確認する →