ごみ処理原価「全国1位」の6割は建設費だった
奈良・沖縄・島根の跳ね上がりを分解する
日本ごみ処理ダッシュボードで令和6年度のごみ処理原価(1トンあたりの処理事業費)を見ると、奈良県が164,618円で全国1位。2位の沖縄県97,302円に7万円近い差をつけた、極端な数字です。ところが奈良県の令和元年度は54,137円で、当時は全国のほぼ平均並みでした。6年で3倍——この間に奈良県のごみ処理が3倍非効率になったのでしょうか。原価の中身を分解すると、まったく別のものが見えてきます。
処理原価には、施設の建設費が含まれている
環境省の実態調査でいう「ごみ処理事業経費」は、次の3つの合計です。
建設改良費(焼却施設・最終処分場などの工事費と調査費)、処理及び維持管理費 (人件費・収集運搬費・中間処理費・最終処分費・委託費など、日々の運営にかかる費用)、そしてその他。 本サイトの処理原価は、この合計をその年度の処理量で割った値です。
ここに落とし穴があります。清掃工場の建て替えは数百億円規模の事業で、しかも工事が集中した数年間に 費用が計上されます。運営がまったく同じでも、建て替えをしている年の原価だけが跳ね上がるのです。
奈良県の原価を分解する
令和元年度から6年度まで、奈良県の処理原価を建設改良費と運営費に分けてみます。
| 年度 | 処理原価 | うち建設改良費 | うち運営費 | 建設費の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 令和元年度 | 54,137 | 1,844 | 49,537 | 3.4% |
| 令和2年度 | 61,648 | 6,228 | 51,330 | 10.1% |
| 令和3年度 | 65,070 | 8,580 | 53,342 | 13.2% |
| 令和4年度 | 79,042 | 20,771 | 54,293 | 26.3% |
| 令和5年度 | 109,830 | 45,116 | 60,617 | 41.1% |
| 令和6年度 | 164,618 | 97,036 | 62,958 | 58.9% |
6年間で原価は110,481円増えましたが、そのうち95,191円(86%)が建設改良費の増加です。 運営費は49,537円→62,958円の増加にとどまります。この13,421円(+27.1%)という伸びも決して小さくはありませんが、 同じ期間に全国平均の原価が51,009円→66,436円(+30.2%)と上がっていることを考えれば、 奈良県の運営コストは全国並みのペースでしか上がっていないことになります。
沖縄県・長崎県でも同じことが起きている
令和6年度に原価が跳ねた県を見ると、同じ構造が繰り返されています。
| 都道府県 | 処理原価 | うち建設改良費 | うち運営費 | 建設費の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 奈良県 | 164,618 | 97,036 | 62,958 | 58.9% |
| 沖縄県 | 97,302 | 46,685 | 41,254 | 48.1% |
| 長崎県 | 87,756 | 19,496 | 52,141 | 22.2% |
| 北海道 | 85,621 | 29,557 | 50,947 | 34.5% |
| 福井県 | 84,967 | 36,802 | 45,429 | 43.3% |
| 東京都 | 82,726 | 14,205 | 62,456 | 17.2% |
| 福岡県 | 77,825 | 13,047 | 61,073 | 16.8% |
| 徳島県 | 77,397 | 4,974 | 68,245 | 6.4% |
沖縄県は令和5年度の57,531円から6年度の97,302円へ1年で69%の急騰を見せましたが、 建設改良費が13,189円→46,785円と3.5倍になったことがほぼすべてを説明します。 運営費は39,091円→41,254円と5.5%の増加にとどまりました。
長崎県はやや事情が異なります。令和6年度の原価87,756円のうち建設改良費は19,496円(22.2%)で、 奈良・沖縄ほど建設費に偏ってはいません。むしろ注目すべきは、長崎県が令和元年度にすでに 72,283円と高かったことです。当時の内訳を見ると建設改良費が28,726円(39.7%)—— この県は6年間の最初と最後の両方で建設期に当たっていたのです。 その間の令和4年度は原価57,662円(建設費割合7.5%)まで下がっています。
島根県を見ると、この指標の不安定さがよく分かる
最も分かりやすい例が島根県です。
| 年度 | 処理原価 | うち建設改良費 | うち運営費 | 建設費の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 令和元年度 | 64,565 | 19,179 | 41,615 | 29.7% |
| 令和2年度 | 91,392 | 42,248 | 44,702 | 46.2% |
| 令和3年度 | 135,481 | 73,188 | 41,996 | 54.0% |
| 令和4年度 | 66,890 | 21,301 | 41,415 | 31.8% |
| 令和5年度 | 57,668 | 6,952 | 45,193 | 12.1% |
| 令和6年度 | 75,766 | 21,287 | 50,159 | 28.1% |
令和3年度の島根県は135,481円。この年であれば文句なしの全国1位です。ところが2年後の令和5年度には 57,668円まで落ち、全国平均(60,812円)を下回ります。この間、運営費は41,996円→45,193円とほとんど動いていません。 順位が入れ替わったのは、工事が終わったからです。
つまり処理原価の単年度ランキングは、その県のごみ処理が効率的かどうかではなく、 その年にたまたま清掃工場を建てていたかどうかを、かなりの割合で映しています。
建設費を除くと、ランキングの顔ぶれが変わる
では建設改良費を除いた運営費だけで並べるとどうなるか。令和6年度の上位は 徳島県68,245円・奈良県62,958円・東京都62,456円・福岡県61,073円・和歌山県53,428円。 少ないほうは群馬県36,213円・富山県37,031円・石川県38,197円・茨城県38,405円・宮城県38,990円です。
この「運営費のみ」の原価は、ダッシュボードの指標としても選べるようにしました。 ランキングの指標を 「ごみ処理原価(運営費のみ)」に切り替えると、建設費を除いた順位が確認できます。
沖縄県は41,254円で、合計では全国2位だったのが運営費では中位以下に下がります。 逆に東京都や福岡県のように、建設費の割合が小さいまま上位に入る県は、 日々の運営そのものにコストがかかっていると読めます—— これは以前の記事で扱った、 施設の規模と集約度の話につながっていきます。
建設ラッシュそのものは全国的な現象
なお、全国の処理事業費に占める建設改良費の割合は、令和元年度21.8%から令和6年度23.2%とほぼ横ばいです。 令和6年度に建設費が原価の30%を超えた県は12。全国の焼却施設の多くが1990年代から2000年代前半に 建てられたことを考えれば、更新期が重なるのは自然なことで、今後も同じ理由で原価が跳ねる県は 入れ替わりながら現れると考えられます。
全国平均の処理原価が6年間で51,009円から66,436円へ30%上昇したのは、建設費の割合が増えたからではなく、 人件費・委託費・燃料費といった運営コスト側の上昇が主因です。
単年度の1位には、たいてい理由がある
「全国で最もごみ処理費が高い県」という見出しは目を引きますが、その中身の6割が 将来のための施設投資だとしたら、意味はずいぶん変わってきます。ランキングの数字を見たときに 「これは何の合計なのか」を一度確かめる——それだけで、読み違いはかなり減らせます。
「運営費のみ」の原価に切り替えて、建設費を除いた順位を確かめてみましょう。
ダッシュボードで確認する →